約10ヶ月ぶりにやってきたのは大好きなあいつと薄手の長袖シャツだ。涼しいと感じる風はそんなことないよとかぶりを振る。うっとうしいやつらが寝てる間にテレビは改編期を迎え、青くさいタレントが目に入ればリモコンを捨てる。つきっぱなしのビーテレを叩いては息を吹きかけ、都市伝説を信じる自分に憫然たるアイドルを重ねる。電話が掛かってきては留守がかかるギリギリで取り、切りの繰り返しをする自分にCMに出る売れっ子アイドルを重ねる。翌日が面接ということを忘れ、早く寝ることを決心した。

  会場のある駅に着き、足に付いた腕時計を見ると10時に到着したかったところ10時に着いてしまい、寄るつもりもなかったコンビニを無視して、カバンにあるメガネをかけようとすれば視力が良いことに気づいた。展開を待つ読者を無視して2歩下がり、コンビニに入っては出て、入店音の最初の音符はファの♭だと認識する。

マリオのような二次元視点でこの光景を見ていれば、変な人とコンビニがデットヒートを演じているように見えるに違いない。しかし、ゴール付近変な人はラストスパートでコンビニを置き去りにしてテープを切った。

  面接官である私は40分の遅刻をして、我が社の最終面接に臨んだ。全部で5人。絵に描いたような好青年ばかりだった。しかし、絵には描いてなかった。思いっきり喋ってた。1人息が匂ったので、裏で音を出していたとは思えない。私の面接におけるセオリーは特殊だと周りによく言われる。自覚はないが、否定はしていない。自分を決めるのは間違いなく他人。これは面接においてもいえることである。

  「よーいハイ」の声がかかるとフリー演技が始まった。クラシックは詳しくないが、これは聞いたことがある旋律だった。ドヴォルザーク新世界より。息が匂ったのでその場で弾いていたのだろう。ドヴォさんを生で聴けたことに歓喜する気持ちを抑え、冷静さを取り戻した時には彼は演技を終えていた。

「ブラボー」の声をかけるとフリー演技が始まった。演歌は詳しくないが、これは聞いたことがあるこぶしだった。八代亜紀舟唄。よかった

「終了」の声をかけるとショート演技が始まった。ルッツとループのコンビネーションや華麗なステップシークエンス、終盤にはトリプルアクセルを決め、首位に躍り出た。

季節はいつのまに冬になることを知っているのはあいつだけでそのペーソスが最大の魅力である。