KOZUE

梢という女がいた。才色兼備という熟語がぴったりな靴のサイズだった。24.5cm。梢とは春に出会った。梢は春のことを純日本人にもかかわらずファルと言ってしまう。神宮にプロ野球を一緒に観に行った時、ファールのことをファールと言っていたので、そうだねと言ったことはいい思い出だ。仙台に旅行に行った時には、低血圧な彼女が朝食のバイキングを目を瞑りながら食べていたことや部屋に帰ると目を見開いてとくダネ!を凝視していたことも印象に残っている。

娘からするとおじいちゃんは無利子無担保で金をくれる人と思っているらしく、彼女はそのことについて注意せず、むしろ若いうちにどんどん利用していけと僕側の両親の実家に訪れる時だけ言う。僕に聞こえるように。むしり取られる両親の金を何故か、僕の誕生日に使ってくれたりするから複雑なところである。

梢が小さい頃経験した境遇は今の彼女からすると到底思いつかないものだったと彼女が言う。具体的な内容を確認したことがないが、嘘はあまりつかないタイプだし、あまり過去について根掘り葉掘り聞くのも違う気がする。清廉潔白という熟語がぴったりの度数のメガネだった。視力0.3。

ただ、そんな彼女がいちどだけ僕にウソをついたことがある。冬にスケートをするというベタな僕の案に笑顔で乗ってくれた彼女と40〜50分かけて埼玉のスケート場に向かった。その道中、ラジオから流れてくる関西芸人の声が聴こえる。はいどうも〜時刻は14時を回りました〜ほっしゃん。です〜。昔、鼻からうどんを入れて口から出す芸で一世を風靡したほっしゃん。がパーソナリティの番組だった。

聴いてるか、聴いてないか判らないが、彼女は外の景色を見ているか、見ていないか判らないが、寝ているか、起きているか判らない。が、確実に喋った。「ほっしゃん。の。って顔の右下にホクロがあるかららしいよ」それが彼女の最初で最後のウソだった。ちなみにその瞬間はウソかどうか全くわからなかったが、その夜、ホテルでたまたま出演していたバラエティ番組で確認した。何もない綺麗な右下だった。

その日の営みはあまり盛り上がらなかった。というのもウソをつかれたこともあるが、途中で僕のアレを見て「ほっしゃん。ってめっちゃデカいらしいよ」と言われたことが原因である。後に調べたらどうやらそっちは本当らしい。

ちなみに梢はただの友達である。娘は僕とヤギ似の妻との子である。

かくいう梢は近頃、侍と結婚するらしい。

と、プロジェクションマッピングで教えられた。