パート

パートが自分に廻ってくる。ソプラノ隊の右肘が合図だ。腕を曲げ、横腹を底辺とした二等辺三角形が完成した時、スポットライトが自分に当たる。どうせ歌い終わればオベーションはしてくれるはずだから後はシッティングをスタンディングに変えられるかが問題だ。今にもオベーションしそうなオーディエンスを余所に楕円形になるよう口を開いた。

時を同じくして自動販売機の中身をおっさんが補充していた。

美声が響くコンサート会場は案の定オベられた。割合は半々くらいでえ、これどっち?って小さい声も聞こえた。写真を撮るわけではないのに、後ろに長身の方がいるわけではないのに完璧な中腰を決めている人が大勢いた。なので写真を撮っておいた。これだけの人数でカメラマンが一度も指示しなかった未曾有の一枚は画角に入り貴重に保管されているという。

時は遡り自動販売機のおっさんが起床した。

打ち上げ後の二次会ではカラオケ大会が行われた。トイレから帰ってくるといつのまにか自分に廻ってきた。頼みのソプラノ隊の右肘は女の乳を突いていてよく分からない。保険で用意したアルト隊はさっきから壁に向かって走っている。膝がガンガン当たって痛そうだったが、その壁を底辺とした勝利の方程式を導き出したのはソロパートを任された人間のアビリティだろう。スガシカオのprogressを選択すると、ミヒマルGTがかかった。困惑は酒で打ち消したのはいいもののピーポーの部分は未解決だった。

自動販売機のおっさんが仕事を終え、東西線の乗り換えに失敗したことはまだ誰も知らない。

やむをえず、ピーポーの所はピーポーの人で打ち消し、ピーポーじゃない人のパートを歌う。しかし、ピーポーの人がすごいハモってくる。ソロでしか力を発揮できない自分は仕方なくピーポー役に徹するが、タイミングが掴めない。ソプラノ隊の右肘は高速で前後に動いていてよく分からない。アルト隊はクッキングパパを読んでいる。しかし、25ページのおでんが目に入った瞬間、勝利を確信した。こんにゃくもはんぺんも入っていないおでんなど聞いたことがないという言葉は聞いたことがないが、アルト隊の顔面がそういやそうだったのでそれで代用した。

時は自動販売機のおじさんに廻ってきたが、何もやっていない。

パートは自分に返ってきたがもう少しおじさんが引っ張ってくれると思っていたのか、何もしていない。

スイッチ役のADが後でしこたま怒られたパートは誰にも見えない。