JIMYBUKAY

この世界に入って早五年、待ちに待った地上波デビューの仕事は食レポだった。

午前十時に町屋駅に集合し、打ち合わせを済ませ、いざ闘いの舞台である牛丼屋の前に辿り着いた。ここまでの道のりは決して簡単なものではなかったが茨というのもおこがましいので、なんといおうか、ふわふわした道だった。子供が遊ぶ歩きにくいやつ。もしくは、爺が遊ぶ足ツボマッサージのようなごつごつした道だった。その2つが混在していて、まるでGWの風景のようだった。ただ、帰りは渋滞が酷く、とても過酷な道のりだった。つまり、そのくらいだった。店内に入ると元気な青年が「らっしゃいませ」と元気よく「い」を抜く。席は空いていたので好きなところに座ろうとした瞬間にハッと気づく。カメラを意識したポジションに座らねばと。照明や店内の騒音も加味したうえでここしかないベストポジションに着席した。

一つ分外した。内角を攻めすぎてバッターつまり店員の腰を引かしてしまった。カメラマンの顔を伺うことも出来ないくらいの張り詰めた空気に渾身の牛丼トークを炸裂させた。

一つ飛ばした。オチにいくための大事なフリを飛ばし、キャッチャーつまり取れ高が遠のいた。ボール2。

昨夜から熟考してきた味の感想も、在り来たりで陳腐なものだと後でスタジオに来ていた大御所が漏らしていたと聞いた。ボール3。山手線ゲームを一人でした後、トイレに向かった。

ここまで手応えは正直かなりあった。ここから世田谷区に住んでポルシェに乗る華々しい芸能生活が始まると思うと、鳥肌が立ってくる。我ながら天晴れだ、とトイレのドアを勢いよく開ける。煙草を吸いに吸いまくったスタッフ達に始めようかと手を二度叩く。疲れてしまったのだろう、この食レポ界のベッカムに。サッカー界の彦摩呂に。

キャッチーな言葉は国民の認識に相関関係がある。まいうーと言えばあの真顔がガチで殺し屋の石塚が誰もが思いつくだろう。言葉で人は人を覚えるのだ。なら私こと小林タクシーも同様に世間に定着する言葉を考えた。

それが、

JIMYBUKAY‼︎‼︎‼︎

フォアボール。押し出しでサヨナラ負けを喫した。マウンドに立ち尽くす俺にする仕事はもうないようだ。