伸るか反るか。

なんて文句を耳にするこの街を引いてみるようになったのは初めてのことだった。流線形のオブジェが象徴の駅前で若者たちが写真を撮る。一瞬の輝きは彼等の背後にいた悲しい顔をしたジプシーを映したことだろう。同情するのも戸惑うほどの姿にミロク情報サービスが顔を出す。負けじと信号待ちで脚を余していたハズキルーペの広告トラックが横切る。偶然にも同キャストとなった菊川怜に誰も触れようとしない。蹂躙されたこの世の中に真に幸せを見つけ出すものなど果たしているのだろうか。危機感はとっくのまっくにトラックよりも素早く通り過ぎて残された国民は菊川怜と言う名の繁栄に貢献するしかない。そして、この暗黒社会を後に歴史の教科書では僕等が加担したとまるで加害者のように扱うのだろう。勝者の歴史とはよく言ったもので、いつの時代もそれに抗うことは出来ないものだ。気づいてしまったことを忘れることは出来ない。伸るか反るかの本当の意味もきっとこの先知り得てしまうのだろう。

昼は弁当屋で弁当を食らう。夕方はガソリンスタンドでガソリンを食らう。夜はハンバーガー屋でハンバーガーを食らい、〆は質屋で質を食らう。受動人間と揶揄されてもなお、この暮らしを続けるのは愛する娘の為だ。右投げ左打ちの我が娘だ。亜麻色の長い髪を風が優しく撫でる自慢の娘だ。最近、娘はたくさんのコトバを覚えることに興味津々だ。中でも竜頭蛇尾がお気に入りらしく、近頃、竜頭蛇尾抱き枕とリカちゃん竜頭蛇尾verが家に届く。因みに抱き枕は嫁用だ。お金の管理は嫁に任していて、俺は給料制だからこの際言わせてもらいたいが、もう少し真面目じゃなくふざけたお金の使い方をしてもいいんじゃないかと思う。倹約家であることは勿論いい事で主婦の楽しみはスーパーにて少しでも安い食材を手に入れることは重々承知している。しかしその上でもっとママさんバレーの貸コート代、月8,000円とか払って欲しい。俺の金で何してんだと叱ってやりたい。なので、竜頭蛇尾シリーズはこれから禁止しようと思う。余りにもありきたりで王道過ぎて近所にバレるのも恥ずかしいから。躊躇した嫁も渋々認めた昨晩に嫁がしてた真珠のピアスと純金のネックレス最高だった。ミシガン州に引っ越してからというもの菊川怜とは無縁になった。嬉しいような楽しい出来事に心の曇り空はぽっかり空いたままだった。それはまるでウィスコンシン州の市章そのものだった。昼下がり、チョコレートを買いに娘とともにユタ州へ。ノースカロライナ州で流行りの曲をかけながらジョージア州のことなど脇目も振らずにメイン州に到着。娘が長時間のドライブに体調を崩し、ひとまずカリフォルニアで一休み。ニューヨークで一杯ひっかけてからカナダを通らずにアラスカへ。帰りはカナダから帰りたいという愛娘の要望を甘んじて受け入れロードアイランド州へ。途中、イリノイ州の友達に誘われたのでふらっとカフェ・コロラドへ。久々に会う友人はどこか大人びていて、悲しいような侘しい気持ちになった。アラバマのお母さんの話をしたら、オクラホマ州知事と再婚したというビックニュースが飛び込んできた。また、クラスメイトだったオレゴンネブラスカはCNNの人気番組「ザ・ネバダ」のMCになったらしい。旧友の活躍に乾杯し、目的地をとうに忘れたアリゾナミシシッピガメことアーカンソー・モンタナは首都ワシントンD.C.へ。やはり首都だけあって栄えている。各所でLIVEや舞台が繰り広げられていてそれはまさにフロリダのようだ。人気漫才師、ノースダコタサウスダコタがステージに上がると黄色い歓声が轟き、耳にカンザス。昼飯はアイダホポテトとアイオワバーガーで済ませ、すっかりサウスカロライナに忘れた娘を取りに行く。といってもバージニアママがしっかり面倒を見てくれているから安心だ。息子のウェストバージニアは父親似で、挨拶ができるしっかり者だ。ただ、おはようをおはいおと言ってしまう一点を除けば。今んとこ32。後、18か。飛ばすぞ。インディアナで話題のニュージャージーソフトを食べにニューハンプシャーへ。途中雨が降ってきて気分が滅入ったのでマサチューセッツ経由でハワイへ。常夏を20分感じてからのニューメキシコ。雑になってきたことなど関係ないってねしー。一度実家のルイジアナへ。デラウェアに着替えてTVを付けると連日放送しているワイオミング事件のことばかりで嫌気がさしたので、外出し、来月ホッケーで対戦する敵をケンタッキー片手に視察。敵視察。テキシサツ。テキサツ。テキサス。乱れた髪をいつものサロンド・ペンシルバニアで整えてもらう。勿論、コネチカットに。ここで一句。

バーモント

ミネソタミズーリ

メリーランド

すると娘の文句。

帰ろうよ

あかねいろに染

まる道を

木山裕策は応える。

仕方ない

帰ろうか、否

帰るまい

丁半博打

さぁ伸るか反るか

2020東京オリンピックはすぐそこだ。