ブラインド

自分とよく似た人間が現れた。

風貌も口調も人柄もそっくりな彼は僕と横並びで歩いていた。彼の横顔を見てる間、彼は真っ直ぐと前を見つめていた。ふと、前を向き直した時には彼の背中で前が見えなくなっていた。

悔しくて、急いで彼を追いかけてまた横に並んだ。がしかし、彼はとうに僕とは似つかない人間に変貌していた。周りを見渡すと僕と似た人間ばかりで、彼のような者は1人もいなかった。僕はこわくなってうしろにはしりだした。

はしっている途中に僕の大切や人たちとすれ違った気がしたが、はしることに必死でそれどころではなかった。僕は不思議に疲れている気がしなかった。着いた場所はかつての自分が軽蔑していたような場所だった。そうか。僕ははしっていたんじゃなくておちていたのか。ようやく気づいたけど、ここからどうしようか。階段はない。はしごもない。ひともいない。ぼくは昏い奥底でむかしの自分をおもいだしていた。でも、いまの自分とくらべることはなかった。

そんなことしたら、またもう1人の自分が生まれて、そいつに敗れたらぼくはぼくでなくなってしまうから。身につけたこと、学んだことを積み重ねて人は生まれた意味を探しに登り続ける。ただ、その時に誰しも存在するもうひとりの自分がブラインドになって行く手を阻むことがある。ただ、これは先が全くみえない障壁じゃない。隙間が所々にあってその僅かな道筋を誰かに見られたら恥ずかしいような姿勢で通り抜けていくしかない。ただ、いまのぼくには何もなくなってしまったのだ。そのブラインドですら。何処へ進むか迷っていると、ここに来るまでにすれ違った人たちの顔が脳裏をよぎった。よし、その方向をまず目指そう。そしてもし、彼らと笑うことができたならもうそれで十分だ。ゆっくりでいいから。またブラインドが見えてきたら、またブラインドが見えてきたら、そいつに声をかけよう。どうして前ばかり見ているのか聞いてみよう。明日の予定を聞こう。彼を誘って山を登ろう。ちいさな山を。それで仲良くなれたらどんなにうれしいことか。

ぼくはぼくで、憎む必要なんてないんだ。だからブラインドなんて呼び方もやめようよ。ぼくたちは社会に、自然に生かされてるんだ。人工物も装飾もいらない。平坦で何もないような土地をいまは歩き続けよう。