復活

ラストの瞬間を迎える。

心地よい風を浴び、長く閉じていた瞳を開く。

何も喋っていないのに乾いた喉を唾液で潤す。

地に着いていたつま先は踵と平行になり、羽織ったばかりのものを脱ぐ。

櫛は荷物になるので要らないと答え、その代わり髪をもらう。

気に入っていた髪型が崩れれば、また直す。

気に入っていた爪が崩れれば、また直す。

自分に化学的才能があれば、髪と爪を伸びない薬をすぐに作るだろう。

床屋さんと爪切り屋さんの生活のために個人的にしか使わないが。

髪からしたらどうだろう。

生えてきては切られ、切られては生え、坊主にすればバカにされ、バカにされれば坊主にさせられる。いい思いはあまりしてきていないはずだ。

高校球児は3年間坊主で過ごす。恋愛。文化祭に行く時、帰る時。修学旅行の消灯の瞬間、起床の瞬間。オーロラを見た時。18の最大公約数を考えている時。髪を切る時。宗教、正座、仏陀。運転、飲酒、逮捕。

よく言う話で切られる前は大事に扱われるが、切った途端、汚いものとして扱われる。

この不条理に対しての憤りは想像を絶するものだろう。さくらんぼで言えば種を勢いよく吐き出されるようなものだ。本来それがそれなのに。

それでも、彼らは愚かな再生を繰り返す。 間違いを繰り返す。更生出来ずに犯罪にまた手を染める。頭皮から抜け出すことに麻薬的な快楽を得ているとしか思えない。

それでも清原はバットを置かない。かつての歴代最高ホームランバッターとしての矜持が彼をまた駆り立てる。8回裏満塁一打逆転のチャンスで回ってきたのは神さまのクソしょうもないいたずらだろう。場内誰も笑ってないガンスベリの神さまボケに対し清原はやはり魅せる。

レフト線に高く上がった打球を丁度たまたまそこにいたレフトは手を伸ばす。打球は完全にホームランなのだが、手が伸びる。実況もレフトの手に注目する。さぁ、伸びるか、伸びるか、伸び切ったー、赤い線が見えたー。推定14mの伸びがあったホームランだった。ボタンを押すと、レフトのコンセントは凄まじい速さで元に戻る。観客はその姿に沸き、その様はまるでレーザーのようだと皆、口を揃えて言う。一人ズレていたヤツがいたが、勘弁勘ベンジョンソンと言うと、皆、田んぼを耕しに行ってしまった。

清原はまた帰ってくる。田代まさしのように

髪はまた伸びてくる。田代まさしのように。

そうして何度でも復活しよう。