小梅

家庭科室から聞こえてくる小気味良いリズムは音楽室から聴こえてくるメトロノームと混ざり絡まってポンチョが完成した。製作時間約20分。ベテランの技と言われれば照れまくっただろうが個人で作ったので終始真顔だった。しかし帰れば笑顔になるだろう。我が子の笑顔を見て。お遊戯会は3月に開かれる。ママ達は気合を入れて衣装作り、ダンス練習に励む。家庭科は学生時代から得意だったので難は無かった。でも体育は難しかなかった。息子に恥をかかせるわけにはいかない。その一心で取り組み始めたダンス講座も1週間通った所で屁をこいてしまい、もう気まずいのでいけない。EXILEのライブをWOWOWに契約してお芋を食べながら観てみても屁しか出なかった。私とダンスは永遠に結ばれない、間に大きな壁が存在していることを再確認した。

ならば、早いうちに苦手意識を無くすことが肝要だ。夫も運動神経は良くなかった為、案の定遺伝は引き継がれていた。まずは簡単なステップから始めるが上手くいかない。もちろん先生はビデオの中にいる。巻き戻しを押す人間と化した自分は将来を案ずる人間に更に化けた。

1人だけ踊らずに座りこむ我が子を助けることも出来ずただ呆然と見ていることしかできない未来が一瞬見えた時、現在地にダッシュで帰ってきた。が、ちょっとだけ通り越してしまい、迷っている所でヒントが見つかった。ひたむきに踊る息子にただいまと言うと、おかえりと言われたので本当に何処か行っていたのだろう。巻き戻し役はクビになり夫が代打として行っていた。

私にあるもの、それは間違いなく白く塗られた彼奴しかいない。答えは簡単だった。自室に戻り、彼奴を取り出す。勿体ぶる私に息子がなになに?といった表情を浮かべる。リビングへの扉を開ける間際、コウメ太夫?って言う声が聞こえて今行くのは変な感じになると思ったけど後には引けず、登場。やっぱり変な感じになった。コウメの空気出来上がってたから。作っちゃってたから。ただコウメの服なら作れる。このミシンなら。私の心に刻まれたリズムは、人生に刻まれたビートは、この裁縫機しかないのだ。息子にその血が受け継がれている可能性は十二分にある。ビリーズブートキャンプを止めて、赤い布をミシンに留めた。始まる小気味良いリズムに息子は完璧に踊り始めた。右に歩き、左に歩く。テレビで見た通りのコウメだった。

空気は消されていなかった。その後、違う空気が流れたが、それは息子の尻からだった。

血は抗えない。畜生。