家②

ご利用ありがとうございましたあ。

自動で閉まるドアにもかかわらず手動で閉めてくる乗客に歯がゆさを感じる。駅のターミナルに着き、一目散に喫煙所に向かう。歯がゆさをヤニに変えて雑踏に目をやる。圧倒的に多い疲れた顔。少数の笑顔。葛藤を抱える悩み顔。オルタナのキョトン顔。真顔のつもりの自分も群衆と同じなのだろうか。

咳払いを一つして、また黒い立体長方形の左上隅に入った。ティーエーエックスワイ?今、記憶を失ったら初めにいう言葉は疑問符付きのこれだと思い、重いアクセルを踏んだ。

本日6人目の乗客は変わった名の人物だった。タクシー。小林タクシー。刷版会社勤務の男だという。目黒までの走行中、彼は自らの家族について話し出した。

最近家がおかしい気がする、何か家族以外の人物が出入りしているような空気と形跡が見られる、と彼は言う。

ご家族のことについて聞くと、プライバシーだろバカ!といって両親、姉、弟の5人家族であることを尻文字で伝えられた。

戸惑っていると、戸惑うな!と筆談で伝えられる。バックミラーで後方を確認すれば、ここぞとばかりのウインクをかましてくる。

苦手という域を越えた存在の登場に心がワクワクしていると口頭で伝えると、彼は足の爪を切ることに集中していた。マジの目だった。話しかけるのはよそうと方向指示器を早めに出した。

「カチカチカチカチ」「アメアメフレフレ」

「カチカチカチカチ」「ニクヤサイニクヤサイ」

リズムに乗る彼に十割皮肉でおお〜と言うと「イマカラドコイク」というので五割正直にあなたの家と言うと「カチカチカチカチ」と返される。面白三割半分で「カチカチカチカチ」と返すと、小林タクシーはこれから一切口を開かなかった。ただ、何かを喋っていた。口が開いてなかったので聞き取れなかったが。目的地に着くとお金を二割引で払ってきたので頭を八割の力で叩くと彼は口から残りの代金を吐いた。丁寧に皮膚で拭いてくれた料金を受け取り、外に出た。

キョーノコトハイッショーワスレナイ

そう言うと彼はタクシーを使ってリンボーダンスを始める。流石にご家族を呼ぼうとしたが、それも違うと瞬時に気づき最後のテンプレートを使おうとした。その時、彼はタクシーリンボーダンスを成功した。昔から柔らかいのよとカタカナではない言葉で言われた瞬間、彼は成功した側の車線を曲がってきた車に激突した。

大量出血を見て慄いたのか加害者は車から出てきては走り逃げ、追いかけられない自分はただ戸惑っていた。すると彼はそんな自分にダイイングメッセージを残す。

戸惑うな❗️

涙が十二割で溢れる自分に聞こえてきたのは事故車の未だやまない「カチカチカチカチ」「カチカチカチカチ」「カチカチカチカチ」「カチカチカチカチ」

喉が南米かどこかに留学してもいいと思うくらいの大きな声をあげた。

ご利用ありがとうございましたあ。