タイアップ

転校生の紹介とホームルームは僅か数分で終了した。録音していたビートたけしオールナイトニッポンを聴くためにダッシュで下校中、曲がり角で何かに衝突した。正体はどうやら人間のようで、しばらくしてそれは最新の記憶の中にある人物であることが判明した。

「さ、さっきの転校生!?」

漫画で見たような設定と思ったのは束の間、その空想はすぐさま崩壊した。なぜなら向こうはこちらを理解していないからだ。

「さ、さっきの在校生!?」

となるはずもない三十分の一はただの加害者として認識された。登校でぶつかれば運命でも、下校でぶつかれば事故なのだということをこれから先使う予定のない教訓ボックスに投げ捨てた。

たけしはやさしかった。

オイラなんかと切り出せばすぐさま笑いへと昇華させた。ただ滑舌が悪くてなんて言ってるかわからなかった。スタッフが笑っていたので面白いことを言っていたのだと思いたい。

ただ、協賛の企業はハッキリと発音していた。1文字1文字の間に0コンマ何秒かかけていたので、それだけで1コーナー潰れるほどだった。新人スタッフが収録に参加した時、それをボケと勘違いし、ハハッと笑ってしまったが誰も聞いていなかったふりをした。聴くことしか出来ないリスナーさえも。

タイアップにそこまでの尊敬と感謝を抱いているたけしの信条が生まれた経緯に関心を持った一ハガキ職人の自分は、ある日そのことについてメールを送ったが、採用されることはなかった。

そしてとうとうビートたけしのANNは最終回を迎えた。下校中にぶつかった事故の転校生とは図書委員で一緒になったが、それはたまたま2人だけ挙手したわけではなく、転校生とその友達がやろうとしていたところに万年図書委員の自分が割って入った形になっただけである。要するに事故である。二度目の。しかも今回は計画的な。しかし、事故は二度起こればそれはもう運命である。むしろ、確率的に言えば運命以上である。ベクトルはどうであれ。

なので、ここから付き合うことになったのももはや事故なのだろうとメールを送った。

たけしの口上も、最後のタイアップ読みコーナーも、スタッフの苦笑いも終わり、番組終了1分前に読まれたことは、運命と呼ばずしてなんと呼ぼうか。

RN:順応ボーイ

たけし「おいらの信条はなんだってさ、ハハッ最後だしあんちゃんに教えたげるよ、そりゃな…◎%●&△■¢£▼」

協賛会社のCMは果てしなく続く気がした。