病院

ベッドの先には大きなガラス窓が付いていた。対照的に痩せ細った身体が痛々しさと哀れみの念を抱かせる。会っていなかったものの自分のルーツになる人物の姿を涙を堪えながらただ見つめていた。話す言葉が聞こえる時もあれば、その逆もある。ただ、身体の衰弱に比べた時の口の達者ぶりには安堵した。重度の末期ガンに侵された身体に闘い続ける細胞と蝕み続けるガン細胞。決して見えはしないが、その事実が目の前で行われていることははっきりとわかった。面会らしい面会を始めてしたものだからわからないことも多い。ただ話を聞いているだけで当方は嬉しそうに笑う。その愛らしい姿に感極まりそうになるが、堪えた。感情的になることが少ない自分にとってこういう場面での自分の言動は未知なので恐怖もある反面、関心もある。

冷静を装って見つめるだけで終わった今回の件も立場が変われば感情も大きく揺らぐだろう。耐えられず、逃避してしまう可能性だってある。だからこそ今回の経験は今後への糧となるはずだ。そして思った。

衰弱した当人の眼差しはとても余命少ない人とは思えず、強い生気を感じた。亡くなる直前に仙人のように全体を俯瞰してみることができるというのは本当にそうなのだろうか。

そんなことを考えて見つめている目線を少しあげると誰よりも死んだ目をした自分が映った。