走馬灯もどき

ヘアピンとも呼ばれる関門を通過すると、首位の背中を捉える。やっとこさ辿り着いた舞台で醜態は晒せないと自身を奮起させ、より一層の集中力を要す闘いへと向かう…

恋人は言った。たーくんのやりたいことはやらせてやりてえからよ、と。その言葉が後押しとなり、ひいては馬力となった。天下を手中に収めた将軍の微笑みに余裕はあるようでない。綻びを見せれば足元をすくわれることをのんちゃんも言っていたように油断は禁物だ。朝が来るまでに自軍を一点に集中させ、よもやの敵をも逃さない態勢を築かなければシード権など以ての外だ。それにしてもさして実力が備わっていないにも関わらず、どうして我はここまでやって来れたのだろう。そんな類推も全て周囲が打ち消してくれる。誰かのミスや悩みは他の誰かで補い、解決する。チームプレイの真髄が此処にはあるではないか。といってもなお、根幹にある能力や運というものには抗うことは不可能だ。いっちーもその事は深く考えずに認めた上で、世界に名を残した。藪の中に在るべきものを引っ張り出しても、生まれるのは争いや答のない問題の数々だ。真実は人はいずれ死ぬということだけとメメモリが脳裏から再び教えてくれる。ベレー帽が特徴的だったレイさんがこの世を去ってから早一年、喪失感を拭いきれないままこの大会を迎えた。恩師というには余りにもおこがましいが、こちらが師匠と慕っていたことだけは間違いない。メイクドラマを起こしたいわけではないが、ここで錦を飾ることで立派なお墓に良い報告が出来る。それがモチベーションになっていて、その後他人がとやかく言うことはどうでもよかった。あれは、98年だっただろうか。史上初となる歓喜の瞬間を与えてくれた世紀のストライカーは今や定食屋の親父だ。顔を出すと、よおと笑顔で出迎えてくれる。照れ臭いが、その人懐っこさにどこか居心地の良さを感じて頻繁に通うようになった。人を見た目で決して判別するようなことはしない店主は誰からも好かれていた。よっちゃんという愛称はいつのまにか店名にすらなった。よっちゃんはこの前、風俗で125,000円のスペシャルコース…

 

ふと気がつくとゴールテープを切っていた。

10人中6番目のゴールだった。のちに聞くとヘアピン前は2番手だったらしいので、4人に交わされていることになる。一生で最も長い一瞬とは死ぬ前か、もしくは何かを達成した瞬間かと思っていた。が、中途半端な時に発動した。しかもそのことが原因で失敗に繋がった。失敗も死という最悪の失敗ではなく6着というこれまた平凡な失敗だった。はて、あれは一体なんだったのだろう。というかそもそもこの競技なんなのだろう。